大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和37年(行)125号 判決 1964年4月22日

東京都文京区関口駒井町三番地

原告

菅原満さ

右訴訟代理人弁護士

笠井貞男

東京都千代田区霞ヶ関一丁目一番地

被告

右代表者法務大臣

賀屋興宣

右指定代理人検事

真鍋薫

法務事務官 山田弘一郎

大蔵事務官 山木栄吉

岩本親志

右当事者間の昭和三七年(行)第一二五号贈与税納入義務不存在確認等請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「原告が被告に対し、昭和三五年度贈与税(納期は昭和三六年二月二八日)金五五〇、〇〇〇円を納入する義務がないことを確認する。被告は、原告に対し別紙物件目録記載の各土地につき、いずれも東京法務局文京出張所昭和三六年四月六日受付第五、〇二五号をもつてした、同年三月二八日小石川税務署長の帯納処分による差押登記の各抹消登記手続をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

一、原告は、昭和三二年四月一五日請求の趣旨記載の土地を代金二、二〇〇、〇〇〇円をもつて買い受け手持ち現金をもつて右代金を支払つたところ、小石川税務署長は、右土地の買受代金は、原告が夫惟一郎より贈与を受けたもので原告よりその贈与税の申告があり、その納入がないものとして、昭和三六年三月二八日滞納処分により、原告所有の右土地を差し押え、同年四月六日請求の趣旨記載のとおりの差押登記手続をした。

二、しかしながら、原告は右贈与税について申告書を提出したことはないのであるから、被告に対し贈与税を納入すべき義務はなく、したがつて、その滞納ということもあり得ないから、右差押は無効である。

よつて原告は被告に対し、右贈与税の納入義務のないことの確認を求めるとともに、右差押登記の抹消登記手続を求めると述べ立証として、甲第一号証ないし第七号証、第八号証の一、二、第九号証、第一〇号証、第一一号証の一ないし三、(同号証の二三は写をもつて提出)第一二号証ないし第二三号証、第二四号証の一、二を提出し、原告本人尋問の結果を援用し、乙第三号証ないし第六号証の成立は認める、同第一号証のうち官署作成部分の成立は認めるがその余の部分は否認する、原告名下の印影が原告の印鑑によるものであることは認めるが、原告の意思によつて押印されたものではない。同第二号証、第一〇号証の一、第一一号証第二九号証、第三〇号証、第三三号証ないし第三五号証のうち、各官署作成部分の成立は認めるが、右各号証のその余の部分の成立、及びその余の乙号各証の成立はいずれも不知と述べた。

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、

一、原告がその主張の日にその主張の土地につき所有権を取得したことおよび小石川税務署長が右物件を昭和三六年三月二八日差し押え、同年四月六日その登記を経由したことは認めるが、その余の原告主張事実は争う。

二、原告は、昭和三六年二月三日小石川税務署に出頭して係官に対し、本件土地の買受代金を夫惟一郎より贈与を受けた旨申述し

同日昭和三二年度分贈与税の申告書(担当係員が代筆)を提出したのであるから、原告の請求はいずれも失当であると述べ、

立証として、乙第一号証ないし第九号証、第一〇号証の一ないし一二、第一一号証ないし第二〇号証、第二一号証及び第二二号証の各一ないし四、第二三号証ないし第二六号証の各一、二、第二七号証ないし第三五号証を提出し、証人浅井実、岩本親志、中原敏夫、今井覚の各証言を援用し、甲第一号証ないし第三号証、第二四号証の一、二の成立は認めるが同第四号証の成立は否認する。同第一〇号証、第一一号証の一、第一二号証ないし第一四号証のうち各証明部分の成立は認めるが、右各号証のその余の部分の成立及びその余の甲号各証の成立はいずれも不知と述べた。

理由

一、原告が昭和三二年四月一五日別紙記載の土地の所有権を取得したこと、および小石川税務署長が右物件を昭和三六年三月二八日差し押え、同年四月六日その登記手続をしたことは当事者間に争いがない。

二、原告は、本件土地の買受代金について贈与税の申告をしたことはない旨主張し、原告本人尋問の結果では、原告は、昭和三六年二月三日、小石川税務署よりの呼出しにより、同税務署に出頭したところ、係員より本件土地の買受代金の出所についていろいろ尋ねられ、贈与税の申告書を提出することをうながされたが、右買受代金は夫惟一郎より贈与されたものではなく、自己の手持ち現金で前記土地を買い受けたものであつたので、その間の事情を説明して、申告書の提出を拒否した。そしてその際、調書に押印するものと思い係員に印鑑をわたし、押印せしめて帰宅したところ、約一カ月経たころ、納税告知書の交付を受けてはじめて申告書に押印させられたことを知つた旨の供述があり、また成立に争いがない甲第二号証(請願書と題する書面)にも同様な記載があるが、右は後記証拠に照らし、にわかに措信し難い。

かえつて、証人浅井実の証言及び同証言により成立を認めうる乙第一号証によると次のような事実が認められる。すなわち小石川税務署の資産税係浅井実は、昭和三五年七月前任者より本件贈与税に関する書類を引き継ぎ、検討したところ、原告が夫惟一郎より本件土地の買受代金の贈与を受けた事実があり、前任者が原告に対し、贈与税の申告を慫慂したが、まだ申告がなされていないことがわかつた。そこで、昭和三六年一月二五日に出頭するよう原告に連絡し、原告が同年二月三日小石川税務署に出頭したので、右係員は、本件土地の買受代金の出所について尋ねたところ、原告は昭和二三年ごろ、自己所有の不動産を売却し、所持していた現金をもつて、右買受代金を支払つた旨述べたが、係員が、右事実を裏付けるような証拠がなければ税務署としては、調査した資料に基づき、右買受代金を原告が夫惟一郎より贈与されたものと認めて課税処分せざるを得ないが、その場合には、申告の場合に比較して不利になる旨説明したところ、原告も納得して贈与税の申告をすることを承知したので、係員において代筆し、申告書の用紙に原告の住所、氏名、贈与の金額等を書き入れて、原告が所持していた印鑑を押印して申告書(乙第一号証)を作成し、これを提出させ、申告書の受領証を原告に交付したこと、右申告書の受付印の日付が同月四日になつているのは、当日多忙で申告書を受付係に回すのが遅れ、翌日となつたためであることが認められる。

してみると、本件贈与税については、原告より申告があつたものというべきであるから、申告のなかつたことを前提とする原告の請求はいずれも理由がない。

よつて、原告の請求はいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 位野木益雄 裁判官 田嶋重徳 裁判官 桜林三郎)

物件目録

東京都文京区関口駒井町三番地の一

一、宅地 七八坪二〇

同所同番の六

一、宅地 八〇坪

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例